『超マシン誕生』と『超マシン復活』

超マシン 誕生と復活

超マシン 誕生と復活

超マシン誕生

2020年1月、図書館で『超マシン誕生』を借りて久しぶりに読みました。

この本は、データゼネラルのスーパー・ミニコン エクリプス MV/8000を開発した技術者たちの情熱と魂を描いたノンフィクションで、1982年のピューリッツァー賞(ノンフィクション部門)を受賞したベストセラーです。

この本は、1982年にダイヤモンド社から出版され、そのうちに絶版となりました。そして、四半世紀の時を超えて日経BP社から新訳・新装版が発売されました。

私は、1985年頃にダイヤモンド社の『超マシン誕生』を読み、今回は日経BP社の『超マシン誕生 : 新訳・新装版』を読んだので、約35年ぶりにこのノンフィクションに触れました。そして、久しぶりに新しいコンピュータを開発するプロジェクトにワクワク・ドキドキしました。

タイトル 超マシン誕生 : コンピュータ野郎たちの540日
著者 トレイシー・キダー 著 / 風間禎三郎 訳
出版社 ダイヤモンド社
発売日 1982年10月
タイトル 超マシン誕生 : 新訳・新装版
著者 トレイシー・キダー 著 / 糸川洋 訳
出版社 日経BP社
発売日 2010年7月
タイトル The Soul of A New Machine (English Edition) Kindle版
著者 Tracy Kidder 著
出版社 Back Bay Books
発売日 2011年8月

英語版の電子書籍(Kindle版)は、今でも入手可能です。

The Soul of A New Machine

目次

  • プロローグ 嵐を楽しむ男
  • 1 大金を稼ぐ
  • 2 戦争
  • 3 チームをつくる
  • 4 ワラックに訪れた黄金の瞬間
  • 5 深夜のプログラマー
  • 6 背面飛行
  • 7 例のマシン
  • 8 すばらしいマイクロマシン
  • 9 工房
  • 10 NANDゲートへの長い道のり
  • 11 季節より短い時間
  • 12 ピンボール
  • 13 展示会に行く
  • 14 最後の危機
  • 15 大風呂敷
  • 16 恐竜
  • エピローグ

超マシン誕生の背景と概要

この物語は、データゼネラル(DG)が開発したエクリプス MV/8000に携わった技術者たちの情熱と魂を描いた事実の記録です。

世界初のミニコンは、DECが開発したPDP-1です。そして、1965年には12ビットミニコンPDP-8で商業的に大成功しました。そして、1970年にはミニコンの名機と呼ばれた16ビットミニコンPDP-11を発売しました。

一方、データゼネラルは、DECからスピンアウトしたデ・カストロらの技術者が1968年に設立したミニコンメーカーです。そして、1969年に16ビットミニコンのNOVA、1974年に16ビットミニコン エクリプスを発売しました。

ミニコンの世界は、新世代に突入していました。
1976年にDECは32ビットスーパーミニコンのVAX-11/780を発表しました。

データゼネラルは、DECに対抗するために新しい「超マシン」の開発を進めます。ここから、物語が動きます。

年 代 DEC DG
1965年 PDP-8(12bit)
1968年 DG設立
1969年 NOVA(16bit)
1970年 PDP-11(16bit)
1974年 エクリプス(16bit)
1977年 VAX-11(32bit)
1980年 エクリプス MV/8000(32bit)

1978年、開発チームのリーダーであるウエストは、ある建物のVAXを設置した部屋に潜入してキャビネットからプリント基板を引き抜き、使われているチップを調べました。…VAXは複雑すぎる。

1976年、論理アドレス空間を拡張する画期的な新しいマシンを開発する大規模なプロジェクト(コードネーム:FHP)をスタートしました、

その頃、NOVAとエクリプスを開発していたウエストのチームは、32ビット論理アドレスとソフトウェア互換を持つ小型のマシンを設計しました。

それは、1つの箱に2つの異なるマシン(昔ながらの16ビットエクリプスと新しい32ビットコンピュータ)を入れたコンピュータで、モードビットで切り替えます。これをEGOと名付けました。EGOはFHPを1文字ずつ前にずらしたものです。

EGOは、デ・カストロに承認されませんでした。
『エクリプスのアドレス指定機能を拡張するのはいいが、モードビットを使っちゃいかん。』

DECのVAXは、PDP-11と文化的な互換性しかありませんでした。そこで、データゼネラルはエクリプスと完全な互換性を持つ32ビットマシンを作る必要があり、それが勝利への道でした。

その頃、データゼネラルの本命のFHPプロジェクトは、成果を生み出せていませんでした。

1978年、ウエストは保険として裏プロジェクトのイーグルをスタートさせました。悪く言えば、新しいマシンはNOVAの改良版であるエクリプスの改良版にすぎません。しかし、イーグルはエクリプスの改良ではなく、まったく新しい超マシンでした。

1980年、イーグルプロジェクトの成果であるEclipse MV/8000をリリースしました。

本書は、数え切れない困難や試練を乗り越えた技術者たちの情熱と魂の記録です。

《第16章》の最後の行にこんなことが書いてあります。

ウエストはこう付け加えた。「あれはひと夏の恋だった。だけど、それでいいんだ。ひと夏の恋は生涯でも滅多に起きないすばらしい出来事なんだから」。

これ以上、ネタばらしはできませんので、本書でお楽しみください。

最後に、私の好きな言葉になった『黄金の瞬間』について引用します。

《第4章 ワラックに訪れた黄金の瞬間》

一般に技術者は、自分にもその瞬間があったと口にすることはためらうが、よく「黄金の瞬間」について話をする。
それは、滅多にはないことだが、設計者の目から鱗が落ち、問題に対する適切な解決策が突然ひらめいたときに覚える感情をさしている。

超マシン復活

『超マシン復活』は、DECのPDP-10マシンで動作するレトロなOS TOPS-20について記載した電子書籍です。

TOPS-20は、1970年代から1980年代にかけてUNIXと共に人気のあったOSです。偉大な先人が開発したTOPS-20 OSは、歴史的に貴重なソフトウェアの宝庫です。

PDP-10はもう現存していません。そこで、TOPS-20 OSを復活させるために、Linuxマシンでエミュレーターを実行して本物のTOPS-20用バイナリーコードを実行します。

《第1章 DEC TOPS-20の世界》TOPS-20 終焉

1980年代初頭、TOPS-20は成功し非常に人気があり、UNIXなどと共に隆盛期を迎えました。しかし、VAXスーパーミニコンと製品ラインが競合するので内部ライバル廃止のためPDP-10の開発終了というDECの決定は、人気のあったTOPS-20の時代に終止符を打ちました。1980年代の終わりには、かつてのTOPS-20ユーザーたちはUNIXへと流れていきました。

『超マシン誕生』は、データゼネラルがVAX-11に挑戦する新しいマシンの開発ストーリーの書籍でした。一方、『超マシン復活』は、DECの開発したPDP-10マシンのTOPS-20 OSを現代に復活させる書籍です。
残念ながら、PDP-10マシンは、VAX-11の出現により開発中止となり素晴らしいTOPS-20は時代から消えました。

しかし、最近のパソコンや小さなRaspberry Pi ボードコンピューターは、当時のDECのPDP-10シリーズに比べて格段に高性能になりました。その結果、エミュレーター技術により「時を超えてTOPS-20が復活」しました。

『超マシン誕生』の名著にあやかって、DEC TOPS-20の本を『超マシン復活』としました。